korukoru

考えたこと,学んだこと,研究メモ etc. を不定期に綴ります。

「英借文」と「剽窃」のあいだ

少し前に,水本篤先生がご紹介されていた下記の論文を読んだ。
Coleman, J. A. (2014). How to get published in English: Advice from the outgoing Editor-in-Chief. System, 42, 404-411. doi:10.1016/j.system.2014.01.004
SystemのEditor-in-Chiefを3年間務めたColeman教授による,国際ジャーナル投稿に関するアドバイスをまとめた論文である。

1. Introduction以降の見出しは以下の通り。

2. Why publish?
3. Thesis and article
4. Basics
5. English is not my native language
6. The submission, peer review and publication process
7. Peer review
8. Feedback to authors
9. From revision to publication
10. Ethics of research and publication
11. Open access and predatory junk journals

各節で書かれているのは
  • 何故,論文を執筆するのか?*1
  • 学位論文と投稿論文の違い
  • 英語が母語でない研究者は,ネイティブの研究者よりも不利でないか?
  • 投稿から出版までのプロセス
などなど。
国際ジャーナルへの投稿に限らず,研究や各種論文執筆にも有益な論文だと感じた。

この論文中で,特に興味深かったのが10. Ethics of research and publication内の以下3項。

  • 10.4. Plagiarism
  • 10.5. Checking for plagiarism
  • 10.6. Self-plagiarism
全て「剽窃」に関する項で,特に剽窃検証のためのソフトウェアや自己剽窃(self-plagiarism)に関する箇所は勉強になった。
また,10.5項の最後には "textaul" な剽窃*2に加えて,以下のような "methodological" な剽窃の例も挙げられている。

Cost is a concern when the pencil-and-paper version of the test is replaced with computer-based version [...] learners achieved better on the paper-based test than on the computer-based test as a variant of the plagiarised source text

Cost is a concern when pencil-and-paper versions of tests are replaced with computer-based tests [...] learners performed better on the paper-based test than they did on the computer-based one.
(Coleman, 2014, p. 410)

Method / Methodologyでも適切な書き換え・引用が要求される*3という点は,追試(replication)・メタ分析(meta-analysis)が推奨されている昨今,更に重要性を増しているようにも感じた。*4

さて,上記の剽窃に関する項に興味を惹かれていたところに,下記の興味深い話題を拝見した。














森岡正博先生のツイートに端を発した,所謂「英借文」はどの範囲まで有効なのか,という話題だ*5
複数の分野を跨いで,水本篤先生,大久保街亜先生,澤幸祐先生がご意見を述べられているが,大別すると以下5点に分類できるのではと思う次第である。
  • 論文の全ての箇所で,適切な書き換え・引用が為されるべきである。
  • 上記のColeman (2014)の「"methodological" な剽窃」と同様,「論文の全ての箇所」にはmethodやapparatusを含む。
  • 「英借文」に頼る/頼り過ぎるのは良くない。最大限,自分自身の表現を使用すべき。
  • しかし,専門分野毎に特有の4-gram以下の表現に限り,むしろ積極的に学ぶ/ストックするべき(?)
  • 但し,文を丸々借用するのは,明らかに剽窃の範囲である。

文を丸々借用=剽窃は,私も異論なく同意である。だが,定型句はどうだろうか? そもそも,定型句の範囲は何語までだろうか?
上記のやり取りの中で水本篤先生が挙げられているHyland (2008)の論文をはじめとして,所謂「定型句」*6に関する研究では,各分野*7に特有の定形表現がある報告・その報告に基づく教育的示唆が為されている。
また,冒頭のColeman (2014)の中でも以下の通り,

"Because all academic articles contain some set phrases (such as 'questionnaire developed by the researchers', '... was found to be significant' or 'pedagogical implications might include...'), and because the use of formulaic expressions or 'chunks' is part of all language use, including academic writing, we expect to find a low percentage of unoriginal text. But any score above the norm of pre-used phrases leads us to compare the two texts in detail.
(Coleman, 2014, p. 410)

Academic writingにおいて頻繁に使用される定型表現であれば,一定の(低い)割合を越えない限りは借用可と述べられている。
すると,論文全般に応用可能な表現・自身が所属している分野特有の表現は覚えておくに越したことはなく,実際そのような表現のストックを推奨する指導書・表現を集めた表現集も枚挙に暇がない。
心理学のための英語論文の基本表現 心理学論文道場―基礎から始める英語論文執筆 英語論文によく使う表現 英語論文すぐに使える表現集 英文レポートの書き方とすぐに使える例文集 Judy先生の 英語科学論文の書き方 (KS語学専門書) 英語論文基礎表現717 英語論文表現例集―すぐに使える5,800の例文
そして私自身,一例として研究の目的を述べる際には "The purpose of this study is. . ." や "The present study aims to. . ." といった表現を定型的に,剽窃・自己剽窃の意識なく今まで利用してきた。

という訳で,「英借文」や「剽窃」について改めて考える機会が重なり,この記事を書くに至った次第である。
英語の学術論文における「英借文」や「剽窃」ということで,普段の writing の指導と似ている点も異なる点もあり,勉強になった。同時に,この「英借文」と「剽窃」のあいだ問題(?)について,明確な解決策は未だ出ていない。
最もシンプルな解決策は, "writing" 力を鍛えて,英借文に全く頼らなくて済む書き手になるということだろう。しかし,仮に英語のネイティブでも,特有の定形表現に全く頼らずに書くということは難しいようにも思う*8
従って,今の私が考えつく折衷案は,以下2点である。

  • "paraphrasing" や "summarizing" の技術を鍛える。
  • できる限り多くの表現をストックして,かつ自由自在に扱えるようにする。
つまり
  • 語単位のみならず,節単位・文単位での言い換えや要約に慣れた上で,
  • 定形表現のストックの中から最適なものを引き出し
  • 更に自分自身で語単位・節単位・文単位・意味単位等で適宜アレンジできれば,
最低限悪くない選択肢ではないだろうか*9。また,このプロセスに精通すればする程,自身の writing の技術も向上し,英借文に頼らずに済む機会も増えるようにも思う。
とは言え,一言で言えば「地道に書き続けるべし」の一言に尽きるとも思うので,今回考えたことを忘れずに私自身頑張らねば。

以上,本日考えたことはこの辺りで。どうもお疲れ様でした。
最後に,ツイートを引用させて頂いた先生方(特に,冒頭の論文をご紹介して下さった水本先生)に感謝致します。また,全てのツイートは本記事と無関係であり,本記事の内容に関する責任は全て私にあることを申し添えておきます。

*1:或いは,執筆しなければならないのか?

*2:コピペ等,所謂「剽窃」とされるもの。

*3:"methodological" な剽窃に関しては,分野にもよるようだが。

*4:

尚,SLA研究/英語教育研究における追試・メタ分析の必要性に関しては,以下の記事や書籍を参照のこと。
Replication Research in Applied Linguistics (Cambridge Applied Linguistics)
■ "英語教育研究における追試(replication)の必要性 - メソ研 in 秋田 - ひとりごと"
■ "ケンカの後始末,またはSpada & Tomita (2010)について。 - 教育方法学でつっぱる"
■ "メタ分析はすべきではない? - Mizumoto Lablog"
■ "ブログ記事「メタ分析はすべきではない?」へのレスポンス - Togetterまとめ"

*5:というように私は解釈している

*6:

phrase, collocation, idiom, chunk, multiword unit, lexical bundle, formulaic sequenceなどなど,呼称や定義は多岐に渡る。詳しくは,
Formulaic Sequences: Acquisition, Processing and Use (Language Learning & Language Teaching, 9) Formulaic Language and the Lexicon Formulaic Language: Pushing the Boundaries (Oxford Applied Linguistics)
等を,参照のこと。

*7:研究分野だけでなく,論文のような媒体,書き言葉と話し言葉,母語,所属組織,学習環境等の様々な分野を含む

*8:少なくとも私は,日本語に関してそうである。但し,私が未熟な書き手である可能性も充分に考えられるが…。

*9:当然ながら,「剽窃」に関する知識や注意は持った上での話である。

「LET中部支部 外国語教育基礎研究部会 第1回年次例会」で学んだこと

先週末2/22(土),名古屋大学で開催されたLET中部支部 外国語教育基礎研究部会 第1回年次例会に参加した。
光栄・恐縮なことに部会長にお声を掛けて頂き,記念すべき第1回目の会で発表までさせて頂いたのだが,例会全体を通してとにかく実りの多い一日だったので,特に学んだことをまとめておきたいと思う。

まとめの前に,各講演と私が聴講したワークショップの内容は,以下の通り。
水本先生・亘理先生のご発表は,現在も発表スライドと発表の様子を見ることができるので,是非とも聴講をお勧めしたい。

水本篤先生のご講演:「量的データの分析・報告で気をつけたいこと」

亘理陽一先生のワークショップ:「文法指導って何なのさ:目的・内容・方法」
前田啓朗先生のご講演:「外国語教育研究を実りあるものにするために:測定すること・整理すること・分析すること・解釈すること」

■APA manualと図表

水本先生のご講演の中で,

  • Excelのデフォルトの表をそのまま使用するのはギルティであること*1
  • 分野・ジャーナル毎に定められているスタイルに従うこと
を述べられた後,APA公式の図・表に関する指南書である以下2冊を紹介されていた。
Displaying Your Findings: A Practical Guide for Creating Figures, Posters, and Presentations Presenting Your Findings: A Practical Guide for Creating Tables
当日の発表中にも,私は以下のようにツイートしたのだが,個人的にもこの2冊はAPA manualと併せて持っておくことを強くお勧めしたい。

理由もツイートした通りで,APA manualにも図・表に関する章は収録されている*2が,図と表を併せて1章のみ。
Publication Manual of the American Psychological Association APA論文作成マニュアル 第2版
一方,上記の "Displaying. . ." と "Presenting. . ." では,160-180ページをかけて,分析毎の表や図の解説,更にはポスター発表や口頭発表での資料作りまで網羅*3されている。
それでいて薄目・軽目であり,お値段もAPA manual 1冊分以下*4で,総合的に非常に良い買い物だと思う。
APA manualのみを参照すると,痒い所に手が届かない場合が往々にしてあるので,思い切って初期装備として揃えることを改めてお勧めしたい。

有意差と相関

有意差」と「相関」について,水本先生・前田先生それぞれのご講演で言及があった。
例えば有意差信仰は止めよう」ということであったり,「相関分析では外れ値や切断効果に注意を払うべき」ということであったり。
こうした内容は水本先生や前田先生が繰り返し仰っていることと記憶しており,事実,お2人が関わっているご本の中でも同様のことを書かれている。
外国語教育研究ハンドブック―研究手法のより良い理解のために 英語教師のための教育データ分析入門―授業が変わるテスト・評価・研究
私自身,こうした点についてはまだまだ勉強の道半ばで,率直に言って,有意差信仰や誤った相関の解釈と無縁ではなく苦心している。
ただ,この1年間で更に強く感じたのは,学部生や研究を始めたばかりの大学院生における有意差・有意な強い相関への信仰である。
有意差・有意な強い相関が研究には必要不可欠で,それ等が出ないと研究を失敗だと捉えてしまう・不安になってしまう場面を何度か見掛けた。

水本先生は「『有意差』や "significant" という用語も良くない」と旨のことを仰っていたが,ご尤もな指摘だと感じる。
「意味のある差」や "significant" と言われてしまうと,そうでなければ「意味が無い」と感じてしまう人も決して少なくないだろう。
とは言え,今になって日・英の用語を変えられる訳がなく,仮に変えられたとしても前田先生が仰った「単なるラベルの挿げ替え」なので,それこそ根本的には意味が無いように思う。

有意差や有意な強い相関が研究上好ましいか否かは,研究の目的やデザインによるはずである。
また,仮にそれ等が得られずとも,何故得られなかったのか議論する価値があるとも思う。
ましてや,学位論文は紙幅の制限がないので,そうしたこともじっくり語ることができるだろう*5

前田先生がご講演内で仰った以下の点


とも大きく関連する問題だと思うが,こうした点をどのように指導・説明していくかを課題に感じていた自分にとって,非常にホットな内容だった。

■良い例(文)の収集と引き出し

亘理先生のワークショップで特に感じたのが,ツイートした以下の点である*6





この点は文法の説明・文法指導に限った感想ではなく,私自身の研究・授業・後輩指導等にも広く繋がると思った。
特に今年度は,学部生や研究を始めたばかりの大学院生*7に説明する際には,わかりやすい例・具体的な応用例が何より大切だと実感した一年だった。
極端な例としては,私なら「エラータグを付与したコーパス」と聞くだけで色々と興味を惹かれるが,そりゃ私みたいな人間の方が一般的には例外のはずである。

わかりやすい授業や将来の後輩の育成だけでなく,単純に授業の中で「この分野や研究は,こんな風に面白い・役に立つんだな」と少しでも納得と共に伝えられるように。
勉強と情報収集とアンテナを張り巡らせることを怠らず,良い例文や応用例をストックして,適切に引き出すロールモデルになるような,素晴らしい発表内容だった。

■拙発表と初めての試み

今回,私は,以下のタイトルの発表を行った。
「語彙の豊かさ指標の信頼性・妥当性の基礎的検証:テキストの長さ・トピック・スタイルに焦点を当てて」

本発表では,お声を掛けて下さった部会長と相談した上で,初めての試みを行っていた。
その試みは,「実験や分析を含まず,私の研究分野の概観・紹介(=レビュー?)に重きを置いた発表にする」ということ。

今まで私が行ってきた発表は,全て実験や分析の報告・考察を含んだものだった。
そのため,今回の発表は自分にとっては正直 challenging なものだったのだが,今のところは好評頂けたような気がしている*8

「タイトルを『基礎的検証の方法』にした方が内容に沿っていたかもしれない……」と当日あたりに思ったが,「タイトルに反して肩透かし」な発表になっていなければ幸いである。
また,今回の拙発表の方向性が決まった時から以下のような目標





*9
を立てていたので,「こういう分野・方法があるのか」ということを少しでもわかりやすく伝えられていれば,発表者冥利に尽きる次第である*10

■話す技術

最後は発表の内容外,しかし大切な「話す技術」に関しても少々。
亘理先生・前田先生のご発表を拝聴していて感じたのが,軽やかに止まることのない発表のリズムである。
自分も含め,発表,授業,トーク(?)等をする際には,何かしらの狙いを要所要所に込めるのが自然だと思う。

但し,聞いている側が(話す側の)狙いを汲み取って,狙い通りの反応をするとは限らない。
自分が聞いている側である場合を想像しても,例えば狙いに気付けなかったり,狙いに反応して良いのか躊躇してしまったり。
パターンは色々あると思うが,話す側の狙いがスルーされ,うっかり話の中断や話す側の動揺の伝播が充分に有り得る。

しかし,亘理先生・前田先生共に,ご発表中は一貫してそれぞれのリズムを崩さずに発表されていた。
この自身のリズムを貫くことというのは,発表する上でとても大切だと強く感じた。
リズムが安定しているお2人の発表は聞いていて心地良く,また安心して聞いていられたからだ。

来年度以降,広い意味で話す機会というのが増えていく予定なので,この「話す技術」は発表外で勉強になった。



以上,冒頭でも書いた通り,発表内外で非常に実りの多い充実した一日であった。
これだけの密度の会を院生中心に行ったことも常々凄いと感じたが,閉会式で聞いた今後の意気込みは,照れ臭いが心が震えて心底かっこ良かった。
その心意気に惚れた身として,また今回大いに勉強させてもらった身として,次回以降も都合がつく限り,参加・発表していきたいと思っている。

最後に,お声を掛けて下さった部会長,運営に携わられていた方々,発表を聴いて下さった方々に感謝の意を示して,本記事の締めとしたい。本当にありがとうございました。
余談ながら,実況や感想のまとめも僭越ながら作成したので,宜しければ当日の雰囲気の一端を垣間見てもらいたい次第である。
■ "LET中部支部 外国語教育基礎研究部会 第1回年次例会 - Togetterまとめ"

*1:SPSSのデフォルトの表も大概酷い。

*2:第5章: Displaying Results

*3:それぞれの目次については,APAの公式サイトの "Displaying. . .""Presenting. . ." を参照のこと

*4:APA manualの翻訳版なら1冊分の値段で,2冊とも買える。

*5:私の指導教官の教えでもある。

*6:尚,何を以て「良い」とするかの話は割愛するが,ザックリ言うと「門外漢でも直感的にわかりやすい」くらいの意味で。

*7:或いは,広義・狭義問わず専門が異なる人もそうだろう。

*8:言うまでもなく,「気がしている」だけの可能性もある。

*9:ちなみに,このアドリブ補足用の「こんな事もあろうかと」スライドも併せて作っておいたのだが,幸か不幸か使う機会はなく封印と相成った。

*10:勿論,好評だけでなく,ご意見・ご指摘も大歓迎である。

文献の選び方・辿り方・読み方に関して考えたこと

引き続き,亘理陽一先生のブログ記事を拝読して,考えたことを。
本日更新の内容を先に書くつもりが,自分の問題意識とあまりに関連しすぎていて上手くまとめられず,本日に至る。
そして,やっぱり上手くまとめられなかったが,今の自分が考えたこと・悩んでいることの正直な記録として残しておきたい。
尚,私の立場は,(a) 卒業研究・修士研究のサポート・(b) 自分自身も大学院生の2種類である。

亘理陽一. (2014, January 31). 文献の選び方・辿り方考。 [Blog post].
亘理陽一. (2014, January 31). 文献の読み方:Brown & Hudson (1998)を例に。 [Blog post].

■ "文献の選び方・辿り方考。"
■ "文献の読み方:Brown & Hudson (1998)を例に。"

問題提起は,亘理先生のゼミにおける,大学生3年生の卒業研究活動の紹介から。

3年生は卒論に向けての本格的な報告はこれが初めてとなるので,
大修館「英語教育」の好きな記事

関連する文献(概論書やハンドブックのチャプター)

論文(中部地区英語教育学会紀要やJALT Journal等,CiNiiなどで検索)
という流れで各回報告を行い,そこからさらに文献に当たったりして,2月のゼミ旅行までに卒論の研究課題概要(A4一枚程度のアブストラクト)を出すのをゴールとしている。2回目と3回目のいずれかまたは両方で(テーマ的に難しくない限り)英語の文献にチャレンジすることも課している。

この卒業研究の取り掛かり=文献調査*1の方法,個人的には非常に見事で来年度以降は取り入れたいと思うほどなのだが,亘理先生は以下2種類の課題を挙げられている。
  1. 参考文献が全然所蔵されていない
  2. 「論文」という縛りで検索してもらうだけでは玉石混淆を免れない
どちらも「あるある」と頷けるもので,自分自身,悩まされる機会は少なくない。

1. 参考文献が全然所蔵されていない

1点目の課題に対する有力な解決方法の1つは,亘理先生も仰っている図書館間相互貸借(ILL)*2だろう。
一言で言えば,読んで字の如く,他大学の図書館から蔵書を借りたり複写を依頼できたりする制度である。

この制度は,自分の所属大学に資料がなくても資料を入手できる,画期的な制度であるのは間違いない。
但し,その問題点も明確で,亘理先生が挙げられている通り。

となると「図書館で相互複写とか相互貸借を利用するのが筋でしょJK」ということになるのだが,学生・教員が利用しやすい仕組みとはお世辞にも言えないし,時間も費用もかかって地味につらい。
詰まるところ,使い勝手が良い訳ではなく,更に費用と時間が結構痛い*3
卒業研究で初めて研究に取り組み,しかも研究を始めたばかりの学生にとって,1,000円以上のお金を支払うのは中々の博打のように思える*4
また,「読んでみたい」と思っても,到着までに1週間ほど掛かるとモチベーションが多かれ少なかれ低下していることは否めないようにも思う*5

という訳で,画期的ではあるけれど,難も目立つ本制度。
突破口を見つけるとしたら,やはり費用の部分なのかなと。
一例として,早稲田大学名古屋大学ではILLの(一部)無料化,その他の大学でも提携大学との取り寄せであれば無料化等を行っている模様。
しかし,結局は蔵書の数や幅と同じように,所属大学によってしまうことは否めない……。

2. 「論文」という縛りで検索してもらうだけでは玉石混淆を免れない

2点目の課題は,広義の「論文を読む」ために必要なスキルで,上記2つ目の記事の締めにも繋がることだと思っている。

この問題状況の整理,つまり「課題設定」を理解しているか否かでこの論文の理解は大きく変わってくる。と,院生・学生を見ていて思った(からこそ,個人で読むのに任せるのではなく授業・ゼミで取り上げた意義があった)のだが,どうやったらそこに気づけるようになるのかということをつらつら考えた。答えはまだない。単純に論文をたくさん読むというのが一つだが…
つまり,「論文を読む」ためには,
  • 自分の目的,或いは研究課題に適した論文を選ぶスキル
  • 自分の実力に応じた論文を選ぶスキル
  • 自分が選んだ論文を適切に読めるスキル
の最低でも3種類のスキルが必要で,鍛えなければならないように思う。

そして,厄介なことに,これらのスキルは相互に関係し合っている
例えば,自分の実力を超えた難易度の高い論文を選んでしまうと,適切に読むことは極めて難しいだろう。
また例えば,自分の目的から外れた論文を選んでしまっても,やはり適切に読むのは難しいはずである。

どれか1種類のスキルを鍛えるだけでは不十分で,3種類全てを鍛えていく必要がある。
でも,卒業研究で研究を終える学部生にとって,どこまで鍛えるのが適切なのだろうか?
また,卒業研究という非常に限られた時間の中で,効率的に鍛える方法とは一体何だろう?

身も蓋も無いことを言ってしまうと,やはり確実な方法は「単純に論文をたくさん読む」ことだと,亘理先生同様に私も思う。
ただ,「たくさん」は人による上,時間も限られ,研究は卒業研究のみの場合,必要最低限に「たくさん」読む時間やモチベーションを確保することは難しいようにも感じる。
この点も時間やモチベーションを確保できない方が悪いとするのではなく*6,最大限効率的に鍛えられる/学部生に応えられる方法があると良いのだが……。

学部生の研究課題がハッキリと定まれば,指導・サポートする側としても関連度の高低は考えやすく,ある程度は難易度も考えられそう*7だ。
ただ,上記の亘理先生が挙げられているような,これから卒業研究の研究課題を決定する段階では,「関連する文献」を考えるのも難しい。

■ 突破口の可能性=指導・サポートする側のネットワーク構築?

以上の2種類の課題に対して,指導・サポートする側ができる対策は,指導・サポートする側のネットワークを(大学を越えて)構築することなのかもしれないと,最近思った。
人数が増えるほど,所属組織の枠組みも(個人レベルで)広がるほど,知識・資料の共有がしやすくなるからだ。
知識・資料の共有が広がれば,学部生の研究課題に関する

  • 効果的・効率的なアドバイス
  • 関連度・難易度を考慮した文献の提示
  • 簡易さ・速さを重視した個人間での文献のやり取り
もやりやすくなるかもしれない。
勿論,このネットワークをどのように構築するのかが新たな課題として上がってはくるだろうが,個人として考えられる可能性の一つではあるような気がする。
無策はあまりにも切ないので,そうであって欲しい。

以上,本日考えたことはこの辺りで。どうもお疲れ様でした。
最後に,自分の問題意識について改めて考え,まとめる切欠を提供して下さった亘理先生には感謝を申し上げたく思います。まとまったものが駄文・拙文の類なのが申し訳ないのですが,ありがとうございました。

*1:正確には,研究課題の設定も含むだろうか?

*2:概要は,Wikipedia内の "図書館間相互貸借" を参照のこと。

*3:私の場合、大体1~2週間かかり,1,000円前後~1,500円前後かかる。

*4:正直,自分でも痛い。

*5:正直,自分でも(以下略

*6:卒業研究で研究を終える学部生だけでなく,大学院に進学する学部生であっても,研究を始めたばかりの時や悩んでいる時には同様に。

*7:但し,難易度の基準が自分自身なので,学部生の実力にマッチするとは必ずしも言い切れないのだが……。

学部生・院生の視点でも「英語で読めなきゃ話にならない」は目的別で?

亘理陽一先生のブログ記事を拝読して,ツイッターでまとめるのは分量的に難しそうだったのでブログを使ってみることに。

亘理陽一. (2014, February 6). 英語で読めなきゃ話にならないと言う,その前に。 [Blog post].

まず,コメントをしたい亘理先生の記事は「英語で読めなきゃ話にならないと言う,その前に。」を参照のこと。

僭越ながら極々簡単に要約させて頂くと,前提は以下の通りだと思う。
英語教育学の分野に携わる人間でも,

  • 対象読者
  • 執筆者 and/or 読者の目的
によって,英語の原典ではなく訳書を用いて良いのではないか。
但し,研究者ともなれば,最新の動向を追うために英語の原典を当たる必要性が著しく増すであろう。

私の要約が合っているとして,この前提はご尤もだと思うので大賛成。
そして,この前提の上で,以下の様な疑問を投げかけて記事を綴られている。

しかし,学部生・院生から見るとどうだろう?(学習・指導の過程における「翻訳」の効果といった話ではないので,あしからず)
上記の前提は基本的に「研究者」の場合だと思うので,この「学部生・院生」にとってはという疑問もご尤もだと思う。
また,自分としても(a) 卒業研究・修士研究のサポートをする立場・(b) 自分自身も大学院生である立場上,この疑問点は自分に直結する。

■ 「英語で読めなきゃ話にならないと言う,その前に。」には賛成

という訳であれこれ考えた結果,ツイッターではまとめられそうになかったので,以下で思ったことをまとめてみたい次第。
ともあれ,まず書いておきたいのは,亘理先生が書かれていることに賛成であるということ。

例えば,専門分野の文献に関しても

仮に当該分野の研究者たちは原著をずんずん読んで行けるとしても,学部生・院生,あるいは周辺領域の入口的文献として,専門書を日本語に訳して出版しておく意義は大いにあると言いたい……(中略)……翻訳でもいいから原典に触れたい,触れてもらいたいということもある。裾野は広いほうが良いではありませんか。
最新のところばかりをフォローする前に,Gass and Selinker (2008)ぐらいの水準で,諸概念や過去の重要な知見をマップの上で整理し,理解しておくことが大事だと思う。
も,極めて重要かつ適切なご意見だと感じられる。
その上で,締めの
翻訳を礼讃したいわけではない。「たくさん読めばいいというものではなく,自分の頭で考えることが重要だ」と言う向きもあろう。しかし,考えるためには材料や手段が必要なわけで,ただただ考えろマッチョは無責任(ブルース・リーも怒るだろう)。他方で,ひたすら「英語で読めなきゃ話にならない」という英語マッチョand/or原著マッチョも重苦しい。
も,各々の立場を考慮(配慮?)した,大切な箇所であろう。

■ 目的に応じた4種類のレイヤーとリソース

私が書きたいことは,詰まるところ,「 学部生・院生の視点でも「英語で読めなきゃ話にならない」は目的別なのではないか?」ということである。
目的別という点に関して,ひとまず考えたいレイヤーは以下の4段階*1

1. 自分の専門分野外(趣味・娯楽)
2. 自分の専門分野外(勉強・研究)
3. 自分の研究テーマ外
4. 自分の研究テーマ内

下に行く(=数が増す)ほど,自身の研究テーマに近くなるとする。
例えば,現在の自分のことにザックリ置き換えると,このような塩梅である。

1. 自分の専門分野外(趣味・娯楽)=映画や小説
2. 自分の専門分野外(勉強・研究)=新聞,3・4以外の専門分野
3. 自分の研究テーマ外=統計手法,自然言語処理,研究手法
4. 自分の研究テーマ内=語彙習得,語彙知識の測定・評価,ライティング

語弊を恐れず言うと,大きな目標としては,3から英語で読むくらいで良いのではと思う。

特に学部生であれば,3, 4年時にゼミに所属して研究手法やリサーチ・デザインなどなども並行して初めて学んでいく(=負荷が大きい)はずなので,4を英語で読むを目標に据えて諸々を一歩一歩こなしていき,最終的に卒論に臨めると良いのかなと。
院生ともなれば3は英語で読めるようにしておくべきで,1や2も英語で読めるに越したことはないだろうけれど,少なくとも1はプライベートの範疇なので好きな言語で読んで良いのでは。

また,目的*2,費やせるリソース,時間・余裕の有無等によっては,学部生・院生を問わず3や4を日本語で読んでも良いように思う。
むしろ,必要性に応じて,積極的に/敢えて日本語を選択する判断力というのも,英語で読めるスキルと同等に重要に感じる。時間も各種リソースも有限なので。Time is money.

■ まとめ

という訳で,亘理先生のご意見に賛同した上で,個人的に思ったことをまとめると,

  • 学部生・院生の視点でも,「英語で読めなきゃ話にならない」は目的別で良いのでは?
  • 一例として上記4段階のレイヤーで考えると,3 and/or 4を英語で読めるような目標設定が適切なのでは?
  • 目的,費やせるリソース,時間・余裕の有無によって,英語 or 日本語の判断を下すスキルも重要なのでは?
くらいだろうか。

ちなみに,

  • 3・4いずれにしても,英語で*3「適切に」読めるようになる/指導するのは難しいように感じている
  • どういったケースで日本語を効果的に選択すべきかは,指導する/指導を受ける機会があるかどうかも疑問
なので,学部生・院生の立場では,この2点がより(?)重要な課題になるかもしれない。

以上,本日考えたことはこの辺りで。どうもお疲れ様でした。

*1:厳密に考えれば,更に細分化でき,5段階以上になるなどするかもしれないが。

*2:例えば,初めて新しい(狭義の)専門分野に触れる時・先行研究を概観したい時など?

*3:正確には、日本語でさえも。

2014年度コーパス言語学関係の学会まとめ

  • 2014/02/16: Learner Corpus Studies in Asia and the World (LCSAW) 2014の情報を更新。
  • 2014/02/15: Learner Corpus Studies in Asia and the World (LCSAW) 2014を追加,及び他の学会の情報も最新版にアップデート。
  • 2013/12/10: American Association for Corpus Linguistics (AACL) 2014を追加。
  • 2013/10/30: 英語コーパス学会東支部 講習会・研究発表会を追加*1

2014年度開催予定のコーパス言語学関係の学会*2のまとめです。

  • 主な目的は自分用の備忘録ですが,ご自由にお使い(?)下さい。
  • 現在は2014/02/15付の情報を基にしており,新しい情報が入り次第,随時アップデート予定です。
  • 間違い,新情報,他のコーパス言語学関係の学会の情報等がありましたら,本ブログのコメントや @imukat141 までお伝え頂けますと幸いです。
  • 自然言語処理,Computational Linguistics,Digital Humanities等に関する学会には明るくないため,特に人文学や応用言語学の領域と親和性の高い学会の情報を頂けると喜びます。
以下,abstract提出締切日順ではなく,開催日順で並べています。

開催予定

英語コーパス学会東支部 講習会・研究発表会
Date: 2014/03/8(土)
Venue: 日本大学文理学部
Abstract submission deadline: 1/10 1/25へ延長
(peer-reviewの結果通知は,2月上旬)

6th International Conference on Corpus Linguistics (CILC)
Date: 2014/05/22-24(木~土)
Venue: University of Las Palmas de Gran Canaria
Abstract submission deadline: 1/27 2月上旬まで延長していた模様

Learner Corpus Studies in Asia and the World (LCSAW) 2014
Date: 2014/05/31-06/01(土~日)
Venue: 神戸大学
Abstract submission deadline: 2/15
(peer-reviewの結果通知は,2/28)
Full paper submission deadline: 4/15

11th Teaching and Language Corpora Conference (TaLC)
Date: 2014/07/20-23(日~水)
Venue: Lancaster University
Abstract submission deadline: 1/6 1/12へ延長
(peer-reviewの結果通知は,2/24)

American Association for Corpus Linguistics (AACL) 2014
Date: 2014/09/26-28(金~日)
Venue: ???(Flagstaff, AZのどこか)
Abstract submission deadline: 2/10 3/3へ延長
(peer-reviewの結果通知は,4/11)

英語コーパス学会第40回大会
Date: 2014/10/4-5(土・日)
Venue: 熊本学園大学
Abstract submission deadline: 6/30
(peer-reviewの結果通知は,7月末予定)

開催未定

International Conference for the Korean Association for Corpus Linguistics (KACL)
Date: 2014/12の2週目週末?
Venue: ???
Abstract submission deadline: 10月末?

2015年度(以降)開催?

■ Corpus Linguistics (hosted by Lancaster, in July 2015)
■ Learner Corpus Research (LCR)
■ Asia Pacific Corpus Linguistics Conference (APCLC)
■ Corpus Linguistics in China Conference (CLIC)

*1:厳密には2014年ではないですが、発表申込がこれから、且つ2014年中の開催のため。

*2:コーパス言語学」という用語は自分の中でも揺らぎがあるので,ひとまずコーパス」という言葉を冠する学会くらいの緩い基準です。