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考えたこと,学んだこと,研究メモ etc. を不定期に綴ります。

「LET中部支部 外国語教育基礎研究部会 第1回年次例会」で学んだこと

先週末2/22(土),名古屋大学で開催されたLET中部支部 外国語教育基礎研究部会 第1回年次例会に参加した。
光栄・恐縮なことに部会長にお声を掛けて頂き,記念すべき第1回目の会で発表までさせて頂いたのだが,例会全体を通してとにかく実りの多い一日だったので,特に学んだことをまとめておきたいと思う。

まとめの前に,各講演と私が聴講したワークショップの内容は,以下の通り。
水本先生・亘理先生のご発表は,現在も発表スライドと発表の様子を見ることができるので,是非とも聴講をお勧めしたい。

水本篤先生のご講演:「量的データの分析・報告で気をつけたいこと」

亘理陽一先生のワークショップ:「文法指導って何なのさ:目的・内容・方法」
前田啓朗先生のご講演:「外国語教育研究を実りあるものにするために:測定すること・整理すること・分析すること・解釈すること」

■APA manualと図表

水本先生のご講演の中で,

  • Excelのデフォルトの表をそのまま使用するのはギルティであること*1
  • 分野・ジャーナル毎に定められているスタイルに従うこと
を述べられた後,APA公式の図・表に関する指南書である以下2冊を紹介されていた。
Displaying Your Findings: A Practical Guide for Creating Figures, Posters, and Presentations Presenting Your Findings: A Practical Guide for Creating Tables
当日の発表中にも,私は以下のようにツイートしたのだが,個人的にもこの2冊はAPA manualと併せて持っておくことを強くお勧めしたい。

理由もツイートした通りで,APA manualにも図・表に関する章は収録されている*2が,図と表を併せて1章のみ。
Publication Manual of the American Psychological Association APA論文作成マニュアル 第2版
一方,上記の "Displaying. . ." と "Presenting. . ." では,160-180ページをかけて,分析毎の表や図の解説,更にはポスター発表や口頭発表での資料作りまで網羅*3されている。
それでいて薄目・軽目であり,お値段もAPA manual 1冊分以下*4で,総合的に非常に良い買い物だと思う。
APA manualのみを参照すると,痒い所に手が届かない場合が往々にしてあるので,思い切って初期装備として揃えることを改めてお勧めしたい。

有意差と相関

有意差」と「相関」について,水本先生・前田先生それぞれのご講演で言及があった。
例えば有意差信仰は止めよう」ということであったり,「相関分析では外れ値や切断効果に注意を払うべき」ということであったり。
こうした内容は水本先生や前田先生が繰り返し仰っていることと記憶しており,事実,お2人が関わっているご本の中でも同様のことを書かれている。
外国語教育研究ハンドブック―研究手法のより良い理解のために 英語教師のための教育データ分析入門―授業が変わるテスト・評価・研究
私自身,こうした点についてはまだまだ勉強の道半ばで,率直に言って,有意差信仰や誤った相関の解釈と無縁ではなく苦心している。
ただ,この1年間で更に強く感じたのは,学部生や研究を始めたばかりの大学院生における有意差・有意な強い相関への信仰である。
有意差・有意な強い相関が研究には必要不可欠で,それ等が出ないと研究を失敗だと捉えてしまう・不安になってしまう場面を何度か見掛けた。

水本先生は「『有意差』や "significant" という用語も良くない」と旨のことを仰っていたが,ご尤もな指摘だと感じる。
「意味のある差」や "significant" と言われてしまうと,そうでなければ「意味が無い」と感じてしまう人も決して少なくないだろう。
とは言え,今になって日・英の用語を変えられる訳がなく,仮に変えられたとしても前田先生が仰った「単なるラベルの挿げ替え」なので,それこそ根本的には意味が無いように思う。

有意差や有意な強い相関が研究上好ましいか否かは,研究の目的やデザインによるはずである。
また,仮にそれ等が得られずとも,何故得られなかったのか議論する価値があるとも思う。
ましてや,学位論文は紙幅の制限がないので,そうしたこともじっくり語ることができるだろう*5

前田先生がご講演内で仰った以下の点


とも大きく関連する問題だと思うが,こうした点をどのように指導・説明していくかを課題に感じていた自分にとって,非常にホットな内容だった。

■良い例(文)の収集と引き出し

亘理先生のワークショップで特に感じたのが,ツイートした以下の点である*6





この点は文法の説明・文法指導に限った感想ではなく,私自身の研究・授業・後輩指導等にも広く繋がると思った。
特に今年度は,学部生や研究を始めたばかりの大学院生*7に説明する際には,わかりやすい例・具体的な応用例が何より大切だと実感した一年だった。
極端な例としては,私なら「エラータグを付与したコーパス」と聞くだけで色々と興味を惹かれるが,そりゃ私みたいな人間の方が一般的には例外のはずである。

わかりやすい授業や将来の後輩の育成だけでなく,単純に授業の中で「この分野や研究は,こんな風に面白い・役に立つんだな」と少しでも納得と共に伝えられるように。
勉強と情報収集とアンテナを張り巡らせることを怠らず,良い例文や応用例をストックして,適切に引き出すロールモデルになるような,素晴らしい発表内容だった。

■拙発表と初めての試み

今回,私は,以下のタイトルの発表を行った。
「語彙の豊かさ指標の信頼性・妥当性の基礎的検証:テキストの長さ・トピック・スタイルに焦点を当てて」

本発表では,お声を掛けて下さった部会長と相談した上で,初めての試みを行っていた。
その試みは,「実験や分析を含まず,私の研究分野の概観・紹介(=レビュー?)に重きを置いた発表にする」ということ。

今まで私が行ってきた発表は,全て実験や分析の報告・考察を含んだものだった。
そのため,今回の発表は自分にとっては正直 challenging なものだったのだが,今のところは好評頂けたような気がしている*8

「タイトルを『基礎的検証の方法』にした方が内容に沿っていたかもしれない……」と当日あたりに思ったが,「タイトルに反して肩透かし」な発表になっていなければ幸いである。
また,今回の拙発表の方向性が決まった時から以下のような目標





*9
を立てていたので,「こういう分野・方法があるのか」ということを少しでもわかりやすく伝えられていれば,発表者冥利に尽きる次第である*10

■話す技術

最後は発表の内容外,しかし大切な「話す技術」に関しても少々。
亘理先生・前田先生のご発表を拝聴していて感じたのが,軽やかに止まることのない発表のリズムである。
自分も含め,発表,授業,トーク(?)等をする際には,何かしらの狙いを要所要所に込めるのが自然だと思う。

但し,聞いている側が(話す側の)狙いを汲み取って,狙い通りの反応をするとは限らない。
自分が聞いている側である場合を想像しても,例えば狙いに気付けなかったり,狙いに反応して良いのか躊躇してしまったり。
パターンは色々あると思うが,話す側の狙いがスルーされ,うっかり話の中断や話す側の動揺の伝播が充分に有り得る。

しかし,亘理先生・前田先生共に,ご発表中は一貫してそれぞれのリズムを崩さずに発表されていた。
この自身のリズムを貫くことというのは,発表する上でとても大切だと強く感じた。
リズムが安定しているお2人の発表は聞いていて心地良く,また安心して聞いていられたからだ。

来年度以降,広い意味で話す機会というのが増えていく予定なので,この「話す技術」は発表外で勉強になった。



以上,冒頭でも書いた通り,発表内外で非常に実りの多い充実した一日であった。
これだけの密度の会を院生中心に行ったことも常々凄いと感じたが,閉会式で聞いた今後の意気込みは,照れ臭いが心が震えて心底かっこ良かった。
その心意気に惚れた身として,また今回大いに勉強させてもらった身として,次回以降も都合がつく限り,参加・発表していきたいと思っている。

最後に,お声を掛けて下さった部会長,運営に携わられていた方々,発表を聴いて下さった方々に感謝の意を示して,本記事の締めとしたい。本当にありがとうございました。
余談ながら,実況や感想のまとめも僭越ながら作成したので,宜しければ当日の雰囲気の一端を垣間見てもらいたい次第である。
■ "LET中部支部 外国語教育基礎研究部会 第1回年次例会 - Togetterまとめ"

*1:SPSSのデフォルトの表も大概酷い。

*2:第5章: Displaying Results

*3:それぞれの目次については,APAの公式サイトの "Displaying. . .""Presenting. . ." を参照のこと

*4:APA manualの翻訳版なら1冊分の値段で,2冊とも買える。

*5:私の指導教官の教えでもある。

*6:尚,何を以て「良い」とするかの話は割愛するが,ザックリ言うと「門外漢でも直感的にわかりやすい」くらいの意味で。

*7:或いは,広義・狭義問わず専門が異なる人もそうだろう。

*8:言うまでもなく,「気がしている」だけの可能性もある。

*9:ちなみに,このアドリブ補足用の「こんな事もあろうかと」スライドも併せて作っておいたのだが,幸か不幸か使う機会はなく封印と相成った。

*10:勿論,好評だけでなく,ご意見・ご指摘も大歓迎である。