"Research synthesis"に対応する日本語は?
ツイッターのタイムラインで,浦野研先生が以下の質問をされていた。
【ゆる募】Research synthesis の日本語。
下記の通り、私もアイディアを伝え、併せて少々お力添えをさせて頂いたが、力不足は明白であった。
そこで、浦野先生の用語探しが少しでも多くの人に目に触れるように、"Research synthesis"の簡単なまとめを兼ねた、ブログ記事執筆という形でもご協力できればと考えた次第である。
また、浦野先生の質問を切欠に考えたことを、この機会に記しておきたい。
■What's "Research Synthesis"?
"Research synthesis"は、亘理陽一先生のツイートをお借りして極々簡単にまとめると、以下のような研究の枠組み・手法である。
「しらべてわかったことを、ぜんぶひっくるめてきちんとまとめること」
そして、"Research synthesis"の考え方、概要、必要性の説明、主にSLA*2分野での略歴などなどに関しては、以下の論文や書籍(の該当箇所)が参考になる。*3
- Cooper, H., Hedges, L. V., & Valentine, J. C. (Eds.). (2009). The handbook of research synthesis and meta-analysis (2nd ed.). New York, NY: Russell Sage Foundation.
- In'nami, Y., & Koizumi, R. (2010). Database selection guidelines for meta-analysis in applied linguistics. TESOL Quarterly, 44, 169-184. doi:10.5054/tq.2010.215253
- Norris, J. M., & Ortega, L. (2000). Effectiveness of L2 instruction: A research synthesis and quantitative meta-analysis. Language Learning, 50, 417-528. doi:10.1111/0023-8333.00136
- Norris, J. M., & Ortega, L. (2007). The future of research synthesis in applied linguistics: Beyond art or science. TESOL Quarterly, 41, 805-815. doi:10.1002/j.1545-7249.2007.tb00105.x
- Ortega, L. (2003). Syntactic complexity measures and their relationship to L2 proficiency: A research synthesis of college-level L2 writing. Applied Linguistics, 24, 492-518. doi:10.1093/applin/24.4.492
- Porte, G. (Ed.). (2012). Replication research in applied linguistics. Cambridge University Press.
■"Research synthesis"に対応する日本語の不在?
しかし、言われてみれば、"Research synthesis"に対応する(定着した)用語や訳語は、寡聞にして思い付かない。
そこで、上記の論文の著者の1人である印南洋先生が、以下の2冊で執筆されたメタ分析の章より、参考になりそうな表現を探してみた。
- 印南洋 (2012a). 「メタ分析入門:研究結果を統合するには」 竹内理・水本篤 (編著) 『外国語教育研究ハンドブック:研究手法のより良い理解のために』 (pp. 227-239) 東京:松柏社
- 印南洋 (2012b). 「メタ分析:複数の研究を統合する」 平井明代 (編著) 『教育・心理系研究のためのデータ分析入門:理論と実践から学ぶSPSS活用法』 (pp. 224-248) 東京:東京図書株式会社
- 「先行研究を包括的に収集・統合」
- 「系統的にまとめる」
- 「先行研究の収集・統合の厳密さ」
また、その他にも
- 「客観的」・「客観性」
- 「再現性が高い」
- 「厳格性」
- 「透明性」
- 「統計的に統合」
但し、質問者の浦野先生が
@imukat141 @wtrych ありがとね〜。でもそれだと「説明」ではあるんだけど「用語」ではないのよね〜。定着させるためには短くてわかりやすいものがいいなぁと思って。
2014-08-28 17:54:13 via YoruFukurou to @imukat141
と仰っている通り、これらのフレーズやキーワードは、簡潔な用語ではなく説明にあたる。*4
理想としては、上記のフレーズやキーワードを想起できるような用語・訳語が存在すると、理解・普及の観点からも非情に有難い。
が、私個人は「研究の統合」・「先行研究の統合」を思い付くのが関の山なので、浦野先生の質問を切欠に様々な意見が見られればと願う次第である。
浦野先生は回答・意見を引き続き緩く募集中なので、アイディアを思い付いた方は、是非とも浦野先生にリプライやメールを送って頂けると私としても嬉しく思う。
■「分析統合」 vs. 「リサーチ・シンセシス」?
さて、最後に余談を少々。
この浦野先生の質問に対して、以下のような意見が見られた。
「「研究統合」という言葉を聞いたときに「まとめりゃいい」(言葉は悪いですが)というイメージにならないようにしたい」
言うまでもなく、「研究統合」は "Research synthesis" を指す。"Research synthesis" に対応する最もシンプルな訳語だろう。
実は、類似する「研究の統合」・「先行研究の統合」という訳語を思い付いた自分も、この意見には賛成、かつ似た懸念を抱いた。
と言うのも、「研究統合」または「研究の統合」といった用語は、パッと見では極めて身近な日本語のように思う。
そして、用語が身近なだけに、「単純に研究を統合するだけ」という誤った考え方に辿り着きかねない危険性もあるように感じた。
例えば、「メタ分析」や「メタ・アナリシス」というと専門用語っぽさがある(ように思う)ので、読んでいる/聞いている時に注意や意識が向きそうな気がする。
しかしながら、「研究(の)統合」というと一般的な言葉の組み合わせであるが故に、目や耳から流れていってしまわないだろうかという懸念がある。
すると、もしかすると「リサーチ・シンセシス」というカタカナ標記も、専門用語っぽさを出すという意味では良いのかもしれないとも思った。
以上は杞憂に過ぎないようにも思うのだが、せっかくの機会なので、考えたこととして併せて書いておくこととした。
以上,本日考えたことはこの辺りで。どうもお疲れ様でした。
拙ブログ記事の内容が,浦野先生の用語探し、並びにこれから"Research synthesis"について勉強・研究する方*5のお役に少しでも立てれば嬉しく思う。
最後に,ツイートを引用させて頂いた先生方に感謝致します。また,全てのツイートは本記事と無関係であり,本記事の内容に関する責任は全て私にあることを申し添えておきます。